天に手を、古に舞う

何度目かの清兵衛ブログ

違和感

昨日の晩の話だ
日々同じようにゃ背広着こんで仕事さ終えた後だ
引き戸を開げで、土間さ入り込むと、どうにもなんねぇ気分になった
あんれ?あん鍬はあそこさあったべか?
おらぁ思い悩んだ
たすか、あん鍬は、も少し手前でねがったがい?
ちっとそう考えてみっど、全部が全部ちげぇように違和感覚えてくんだ
藁敷きは最後いづ使っちゃが忘っちゃげっちょも、畳ましちゃいねがったがい?
大黒柱は本当にあん向きだっだがい?
トントンと小気味いい音鳴らす障子戸は開いてたがい?
どす黒いぶんずいろに変色した人影はあすこだったがい?
違和感ばかり覚えちまぁ
、、、あ?おらぁさっきよぉ、なんつった?
ああ、、ううん、、、どうも記憶がはっきりしねぇ
縁の下から這い出てきたおらを睨んでるコイツはいつも通りだっだっけ

切り絵と旅する

 

額にはふつと水滴が出ては流れていく。
背はじとりと湿り気を増していき、気分が落ちる。
ぐっと気温も下がってきた時分であるにも関わらず、息は上がり足取りも重くなる。
---もう少し荷物を減らせばよかったかのう
草鞋(ぞうり)ではなく、気取って大きさの合わない革靴を履いてきたが、中には土が入り込み、
足袋(たび)は斑模様(まだらもよう)が東京などではハイカラに映るやもしれぬ。
さて、あとどのくらいと上を見上げると、天上る道かと見紛うほどに長く続く坂道は、
足の運びを遅くする。
幾分からか、足元だけを見つめて上る様は、我ながら滑稽(こっけい)な様(さま)であろう。
---もう少し道なりで山小屋があるはず
ここ、霊感あらたかな山寺へと上り始めたのは、数刻は前のことであった。
用があるのは山寺ではあったが、思い立ったが吉日の精神から登り始めたのは、
なんと日が沈む少し前、酉の刻半ばほどである。
多少暗くなりとも、手元の行灯と持ち前の根性で何とかなると甘い考えをしていたが、
引き返そうと弱気を思ったころには手遅れだった。
気が付いてみれば登山時間のほとんどが暗闇安行(くらやみあんぎょう)である。
燃料も心配になり、道は遠のくが近くにあると聞く山小屋を目指すことにしたのだ。
---しかし、、、、
---さすがにこの雰囲気は無気味と思う
行灯(あんどん)のおかげで手元は見えるが、その他は墨汁を垂らしたような常闇(とこやみ)が広がる。
頬を凪(な)ぐ風は消え、シンと静まりし木々は何かに怯えているようにすら思える。
知らぬ間に出来る限り吐く息も抑えようとしている自分がいた。
見上げる夜空には星一つない曇天(どんてん)模様である有様で、なんの助けにもならない。

風巻御津雄(かざまきみつお)は、変わり者であった。
いや、変わり者と呼ぶには、他の変人に失礼かもしれない。
容貌だけ見れば器量よしの女子の1人や2人寄ってくるであろうと見える。
風巻の行動原理は、知的好奇心を満たすための面白い事であればなんであれ。
北に病人があれば、病気の種類や症状を直接聞きに行き、
西に金貸しに困っている者があれば、殴られるまでどうしてそうなったのか聞く。
南に怪異(かいい)ありと聞けば、幼子(おさなご)まで巻き込んで泣くまで連れ回し、
東に結納ありと聞けば、夫婦間に遺恨を残すほど調べ尽くす。
そして、得た経験を自分の創作に活かすのだ。
人を人と思わぬ態度に周りのものはやっかんだが、風巻は気にせぬ。
今回も知的好奇心が先行し、こうなったが風巻は気にせぬ。

登り続けた舗装されていない山道の横目に小屋が現れた。
おや、危ない、素通りしてしまったという焦りとともに風巻は安堵を覚えた。
「もし、そりゃあなんぞや?」
急な言葉にさすがの風巻も息を呑んだ。
咄嗟に行灯をそちらへ向けると、目の前に人影が浮かび上がり、
ひっと女子(おなご)のような情けない小さな悲鳴を上げてしまう。
人影の形を認識できると、正体はどこかの童子(わらし)のようだ。
歳は十(とお)も行かないぐらいだろうか。
見た目は娘に見えるが、体中土まみれで汚れているため、
本当のところはわからない。
恐らく結ってたであろう長く癖のついた髪は軽く梳(くしけず)ってあり、
虫が住まないよう気をつけているのだろうか。
数週間なのか数カ月なのかはわからないが、明らかにこの山に住んでいるようだ。
少し前は、不作であると食い扶持減らしのために山へ子捨てを行うと
聞いたことはあったが、、、
「そりゃなんぞ?」
返事がないことに不満だったのかは無機質で掴めないが、童子は急かしてきた。
言われて気づいたのだが、右手の中指だけ申し訳なさげに突き出して風巻の左肩を指している。
「、、、あ、ああ」
行灯を地面に置き、左肩に掛けた風呂敷包みを開ける。
「切り絵だ。知っとるかの?」
そう言いながら立派な額縁に入った彩り鮮やかな切り絵を見せた。
それまでは無表情であった童子も、ぱっと表情を変え、繁々と眺め始めた。
ふと寒気を覚えた風巻は、
---風邪をひいちゃあならん
と、山小屋の中に入らないかと提案していた。

小屋の中は狭く、年季が入っていた。
豆電球は付くが、窓もなく出入りは扉だけ、とても小さな机が寒そうに置かれる他は、
隅には寝袋などの必要品が雑多に置かれている。
あまり使われている形跡もないが、童子は使わないのだろうか。
風呂敷を広げてその上に見えるように切り絵を置き、行灯の燃料や必要なものを探す。
探しながら、名前やなぜここにいるのか、親は、といった質問を投げかけるが、
切り絵を一転に見つめるばかりだ。
こちらの質問には答えず、こらあ大層なもんだと眉間に皺をよせながら、
「どう切る?」
「どういう絵なのじゃ?」
「この獣はなんじゃ?」
「なぜ人は赤い?」
「この村は?」
「お天道様が出てるのに夜なのか?」
「ここは和紙じゃないのか?」
と質問ばかりしてくる。
最初は鬱陶しく思えたが、創作活動について語る機会の少ない風巻の舌は次第に乗ってきた。
童子はふんふんと聞いては次の質問をしてはふんふんと聞くことを繰り返している。
唯一依頼されて作成した、若くして結婚相手も見つけられずに死んでしまった息子のため、
幸せに送り出したいという願いから祝儀絵を作成したという話をしていると、
童子がじっと扉を見ていることに気が付いた。
商売道具を弄びながら捲くし立てるのをやめ、どうした、と問うが一向に目を離さない。
つられて扉を見るが何も変わった様子はない。
話に飽きてしまったのか、変わった奴だと思いながら仮眠の寝支度とその後の準備を始めた。
寅の刻に入る前までには全て終えてしまいたい。
---明日、降りたら駐在さんに話しておくかの
少し寝ることを童子に伝えると風巻は床に入る。
一向に動かない童子は少しなにかを呟いたようだが、風巻には聞こえなかった。

あれからそれほど時は経っていないと思うが、ぎっ、、、と音がし、童子が動いた気配があった。
出ていくつもりなら何とか止めなければなるまい、と思い、目を凝らす。
サワ、サワと音がする。
何の音だ、と扉の方に目を向けると、若草色の塊が見えた。
童子はそれをぼうっと眺めていた。
三尺はあると思われる若草色の塊は、呼吸をしているように見えた。
何かわからない、何かはわからないが、動いてはいけないと本能が耳元で囁いてくる。
蛇に睨まれた蛙という状況はこういった状況をさすのだろうか。
じわと背中に冷たさを感じながらよくよく眺めてみると、なんだか見覚えがある。
---ああ、そうか切り絵の獣か
思いついてバカバカしいと考え直す。
いや、、、しかし、、、、見紛うはずもないと思えてくるぐらい其れに見えてくる。
若草の獣はこちらの考えを読み取ったかのようにフスと鼻息を鳴らすと、
悠々と踵を返し去って行った。
その後もしばらくは風巻は動けないでいた。
---やはり切り絵の獣だったのだろうか
確かにあの獣は、野兎の皮を裂き、乾かした後で着色して作ったものだ。
こういうことも起こりえるかもしれぬと期待していたのは確かだし、
山寺へ持ち込もうとしたのも眉唾物の噂が絶えなかったからだ。
そう思いハッと広げたままだった切り絵を見ようとあたりを見渡す。
童子が消えていることに気づいて落ち込んだが、まずは切り絵に飛びついた。
裏面で置かれていたように見えたため、ひっくり返したが、こちらが裏面だった。
はて、ともう一度ひっくり返すと、額縁の中はのっぺりと半紙が残るばかりで何もない。
これはどうしたことかと、ふらふらと扉を開ける。
空は真っ黒だった。
雲が線を雑多に書いたように這っている。
大げさな比喩ではなく、和紙そのものに見える。
太陽は赤々と浮かび、木々は浅黄色で統一されている。
遥か先に見える山下の村は青く燃えており、人が暮らせる場所とは思えない。
一間ほど離れた場所にいた真っ赤な背広を着た紳士、
-いや全てが真っ赤なので、紳士かどうか、人間かどうかも分からない-
が、やぁと声をかけてきたところで一陣の風が吹いた。
その瞬間、まるで絵具を真水に溶かしたようにすべてが元通りに戻って行った。
あたりは元の静寂と常闇になったが、風巻は満足だった。
一つ残念だったのは、新しい創作素材を手に入れ損ねたことだろうか。
額縁を跡形もなく燃やした後、風呂敷に大きな鋏だけしまうと山を降りて行った。

達磨の面には顔が二つ

自己奔放に生きてきた。
自分には非凡な才能はあるが、今はやらないだけだと。
皆は何をそんなに既に引かれた道を辿ることに懸命になっているのか。
凡人とは違い、オレには夢がある。
昭和の名文豪となって名を馳せることだ。
そのために書生として、この家に邪魔している。
ただ親戚という理由でこのなんの変徹もない家を選んでいるが、一つだけ気に入っている場所がある。
旧家の名残を残す土間だ。
少し前までは、炊事場としての機能も持ち合わせていたのだろうが、今ではたまの作業や、専ら物置としてしか使われていない。
主人はオレの才能を認めてはくれるが、この土間の風景を大事にはしてくれぬようだ。
三和木で作られた、居住空間と一段下に儲けられた空間は、内と外とを繋ぐ唯一の空間なのだと感じさせる。
大きく開く引き戸の戸板も時代を感じさせる色合いがなかなかだ。
土間に置かれる藁敷や、鋤きも、九十九神ではないのかと思えてくる。
この空間内において、光を提供してくれる窓は小さな横窓だけだ。
そのため、特にこの逢魔が時などは、人工的に作られた空間とは思えないほど荒廃した幻想風景を感じさせてくれる。
オレはこの空間でどうしようもない世情や、つまらない流行が如何につまらないかなどの考えを巡らせたり、同世代の流行に走ってしまう愚の小説家の作品を読みながら、古典に比べてここがだめだとか、古典からなにも学んでないと憤ることが、とても心地よい。
無音の静寂と、幻想風景が、全てを受け入れているような、自分と対話しているような気さえする。
コトリ、と渇いた音が響いた。
おや、女中が夕食に呼びに来たかな、と気配を探るが、そのあとの気配がしない。
不思議に思い、さっと目を走らせると、いつもの風景に違和感を覚える。
人の顔ほどの大きさだろうか、赤々とした達磨が暗闇から顔を覗かせている。
はて、あのような達磨がこの家にあっただろうか。
主人は大変理解がよい反面、伝統や歴史、信仰を軽んじる傾向がある。
おたきあげなどせずに、この物置と化した土間においたということだろうか。
よくよく達磨の顔をみると、片目の達磨だ。
いくら信仰心の低い主人でも、願いのかなっていない達磨を放置するとも思えないが。
まぁ、大方、そそっかしい女中が避けたまま忘れてしまったというあたりだろう。
夕食の時間に聞いてみようではないか、 家出した息子にオレを重ねる主人なら聞いてもくれるだろう、と思い、開いた文庫と原稿用紙に目を落とした。
今読んでいるものは、たまたま町の飲み屋で知り合った同世代の奥谷という物書きの作品だ。
物書きということで語り合ったところ、馬があってしまい、昨今の小説文学の行く末をぶつけ合った。
大変気分を良くしたため、よし、じゃあお互いの作品と比べ合おうということで、交換した次第である。
しかし、読んではいるが、なにも頭に入ってこない。
奥谷の文体は太宰を真似たようで全く真似にもなっていない自己満足的なもので、自身の考えを文字にぶつけるだけの物であった。
本来ならとてもじゃあないが、オレが感想を書くにも値しないものなのだが、あれだけ語り合えたなかだ、と筆を取って評論を書いているところだ。
(君主は観衆の喝采をよしとせず、何を守るのか。)
という短い文に対して、200文字を超える評論を書き終える頃、
コトリ、と音がなり響いた。
うん、と目をやると、やはり達磨がいる以外に変わりはない。
。。。いや、少し違う。
なんだか達磨がほんの少しだけ近づいて来ている気がする。
そんな馬鹿な。
妄想が過ぎる。
無理にオレに似合わぬ書き物をしたからつかれているのだ。
目頭を強く押さえつける。
コトリ。
慌てて目を開ける。
。。違う。達磨は近づいているのではない。
回転している。
そう思った瞬間、ソレはこの世のものではないと瞬時に理解した。
足元から頭上まで、一気に感じたことのない悪寒が走る。
目を反らしたいのに反らせない。
コトリ。
もはや瞬きをしただけで回転する。
もうだめだ、逃げなければと思うが、どうにも体が動かない。
所詮は達磨大使の伝説を模した置物に過ぎない、と思ってもどうにもならない。
コトリ。
正面を向いていた達磨が、今や左目が隠れてきている。
コトリ。
おや、と違和感を思う。
コトリ。
達磨の後ろにも、
コトリ。
顔があるのか。
突如、赤子の声が鳴り響く。
オギヤア、オギア、 オギヤア、オギア、 オギヤア、オギア、 オギヤア、オギア、
どうやら、後ろの顔から聞こえてくるだが、オレにはもうどうすることもできない。
オギヤア、オギア、 オギヤア、オギア、 オギヤア、オギア、 オギヤア、オギア、
シヤリン、と何処からか鈴の音がして視界が回転した。
倒れたのか、と思い目を開くが、片目しか開かない。
叩きつけられたためだろうか。目の前には三和木が広がる。
相変わらず赤子の声は五月蝿い。
(そうだ、達磨はどこだ)
もう一度目にする恐怖はあったが、それよりも見失う恐怖の方が圧倒的に強かった。
首を軽く捻ったつもりだったが、視界が90度回転した。
オギヤア、オギア、 オギヤア、オギア、 オギヤア、オギア、 オギヤア、オギア、
頭のなかで赤子の声が鳴り響く。
。。。ああ、そうか、オレは達磨になったのか。
片目だけで、土間に転がる赤い達磨を想像して、感傷的な気分になる。
まるで、それが昔からあるべき姿だったようにさえ思う。
片目の願いは、人間に戻るようにだろうか。
今のオレにはどうだっていいことだ。
気付くと、見知らぬ青年がオレの頭を抱えた。
いつの間にか来ていた主人に青年から手渡される。
神棚などと贅沢は言わない、せめて土間より高い場所がいいなと思う

われだれぞ

ペタラペタ、鳴り響くは|子一刻にて|鐘楼(しょうろう)よ
ペタラペタ、廃る石畳、|崇(あが)む者、|忘らる神か
ペタラペタ、暗き参道、|静寂(しじま)の闇、|素足で歩む
ペタラペタ、記憶も自我も|霞ごとし消える

(われだれぞ?われだれぞ?)参道は|どこまで続くんぞ?
(われだれぞ?われだれぞ?)おやあ、|足には知れぬ間に、、、

カランカラ、下駄に浴衣、|進む冗長は、| 終わりなき
カランカラ、八幡の藪|知らずやぶさかなき

(われだれぞ?われだれぞ?)参道は|どこまで続くんぞ?
(われだれぞ?われだれぞ?)おやあ、|肩には知れぬ間に、、、

ズイズイラ、素足思うに、下駄出づる
ズイズイラ、浴衣思うに、着物出づる
はては、我はあやかしか?

(われだれぞ!われだれぞ!)
件に大狐に餓鬼に青女房
いつの間にやら大行列
(われだれぞ!われだれぞ!)
馬追い、星々は行進に共鳴し
もはや行く道は静寂なき
(われだれぞ!われだれぞ!)
座敷童子や鞍馬天狗待つ参道終わり、大社は見事也

百|鬼夜行取り仕切りし| 我こそは、
出|羽より出づる怪異、化|け猫也て
百|鬼夜行取り仕切りし| 我こそは、
出|羽より出づる怪異、化|け猫也て
さぁさぁ、さぁさぁ、宴始めしこの時よ

 

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われだれぞ(歌詞プロットとインスト)

(※数字は文字数。後の調整用のため)

5 5
ペタラペタ、ペタラペタ
5 5 7
鳴り響く子一刻鳴らす鐘楼(しょうろう)
ペタラペタ、ペタラペタ
7 6 7
廃る石畳、参拝者居ぬ忘るる神か
ペタラペタ、ペタラペタ
4 4 8
参道、静寂を素足にて歩む
ペタラペタ、ペタラペタ
7 7 5
記憶も自我も霞のごとく消え入りて

5 5
われだれぞ?われだれぞ?
5 4 5
参道はどこまで続くんぞ?
われだれぞ?われだれぞ?
2 6 5
おや、足元には知れぬ間に、、、

カランカラ、カランカラ
7 7 5
下駄に浴衣で進む参道闇ばかり
カランカラ、カランカラ
9 6
八幡やぶしらずもやぶさかなき

われだれぞ?われだれぞ?
参道はどこまで続くんぞ?
われだれぞ?われだれぞ?
2 4
おや、肩には知れぬ間に、、、

ズイズイラ、ズイズイラ
8 5
素足気になるに、下駄出づる
ズイズイラ、ズイズイラ
8 6
浴衣気になるに、着物出づる
3 3 5
はては、我はあやかしか?

(われだれぞ!われだれぞ!)
4 6 3 6
件に大狐に餓鬼に青女房
7 6
いつの間にやら大行列
(われだれぞ!われだれぞ!)
4 5 6 5
馬追い、星々は行進に共鳴し
8 5
もはや行く道は静寂なき
(われだれぞ!われだれぞ!)
3 4 3 5
座敷童子や鞍馬天狗待つ
4 3 4 5
参道終わり、大社は見事也

6 6 5
百鬼夜行取り仕切りし我こそは、
7 7 6
出羽より出づる数多刻行く化け猫也
百鬼夜行取り仕切りし我こそは、
出羽より出づる数多刻行く化け猫也
さぁさぁ、さぁさぁ、宴始めしこの時よ

 

 

※並行して、インストを組み立てていくが、主にリズム(何拍目にメロを入れるか)を重視

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※↑を音にして組み立てる

youtu.be

 

われだれぞ(雑文)

世の最も闇の刻限を知らせる、子一刻の鐘が鳴り響 いた。
何処からだろうか、この参道の先から聞こえたよう には思えない。
この薄靄のせいもあるだろう、光指す行灯の他に明 かりもない参道の先に人気は感じられない。
また、時折見せる納屋の作りに鳥居が見られるとこ ろから、この先にあるとすれば神社であろう。
となれば、すぐ近くに別に寺があるのだろうか。
と、ふと周りを見渡してみるが、薄靄のせいで少し 先の歩いてきたらしい道も見えない。
ふぅとため息をつき、歩みをはじめる。
ペタラペタ、ペタラペタ。
ここまで随分歩いた気もするし、この参道に入った ばかりの気もする。
よく覚えていないが、今の意識はハッキリとしてい る。
ペタラペタ、ペタラペタ。
おや?そういえば私は裸足なのか。
どうしたのだろう。
足裏を覗き込んでみるが、ほとんど汚れはない。
近くで脱ぎ捨てたのだろうか。
ペタラペタ、ペタラペタ。
いったいこの道は何処に繋がるのだろうか。
再び歩 みをはじめる。
カランカラ、カランカラ。
行灯、木、納屋、木、木、同じような景色が続く。
この時期であれば、芒畑に鈴虫や馬追の鳴き声が聞 こえてもいいはずだが、 この参道で今はシンと静寂を守っている。
カランカラ、カランカラ。
おや?
カラン、、、、 いつの間にか下駄を履いている。
これはどういうこ とだろう。
下駄など入れておくような恰好ではないし、まして や今まで持っていたわけがない。
この不可思議な現象の答えにすがるように周りを見 渡すも、別段変わった場所はない。
よくわからないが、この参道には「ナニかある」の だろうか。
そういえば、多少肌寒いようにも感じる。
もっとも、私が季節を過ぎた浴衣姿であるからかも しれないが。
、、、なぜ浴衣なのだろう?
もしや、この先には催し物があり、そこへ向かって 歩いていたのだろうか。
この先に行けば、何か思い出せるだろうか。
カランカラ、カランカラ。
みたび歩みを始めた私は、この参道について考え る。
カランカラ、カランカラ。
所々石畳は崩れ、決して歩きやすいとは言えぬ参道 は、参拝者が多いとは思えない。
カランカラ、カランカラ。
その割にはずいぶん長い。
そもそも、こんなに広い敷地を持ちながら無縁神と なるようなこの場所に違和感を覚える。
カランカラ、ズイラ、カランカラ、ズイラ。
ここに祭らる神は、どんな神だろうか。
カランカラ、ズイラ、カランカラ、ズイラ。
カラン、、、、 、、、、
いつの間にか、着物を羽織っている。
まただ。 どうもおかしい。
もしや夢でも見ているのだろう か。
着物の織をなぞってみると、上等な布を使用してい るようだ。
はて、、そういえば、、、
裸足が不便なので履物があればと思ったら、いつの まにか下駄を履いていた。
肌寒さを感じるので上着があればと思ったら、いつ の間にか着物を羽織っていた。
思ったことが、そのまま叶う。
これが現実であるなら、私はあやかしか何かの類と なろう。
スッ、、、と参道の奥で何かが動いた気がする。
体をこわばらせ、目を凝らす。
それは、件だった。
娘の体に牛の顔。
その深緑の目は、何かを思うように私をじっと見て いる。
声をかけようかと思うと、すぐに闇の中に掻き消え てしまった。
あれは、、、
あれは、私を知っている眼だったように思える。
その眼からは、哀しげであったものの、微かに親し みが感じられた。
追おう。
私は自分のことを知りたい。
あやかしであるならそれはそれでいい。
自分が何者であるかについて、もはや執着に近い想 いが沸き起こりつつあった。
われだれぞ?
いくらか歩くと、前から喧騒のような雑音がかすか に聞こえてくる。
なんだろうか、やはり私が向かうべきはこの喧騒の 場所のような気がする。
カランカラ、ズイラ、カランカラ、ズイラ。
サッとナニカが後ろから駆け抜けていった。
チラと私を見ると、留まりもせずに駆け抜けていっ てしまった。
狐だ。
しかも随分大きな体をしていた。
件といい、皆がこの先に向かっているようだ。
やはりどうもこの先に私に関わる何かがあるらし い。
私は歩みを進むる。
われだれぞ、われだれぞ。
気付けば声に出していた。
何だか気分も高揚していく。
カランカラ、ズイラ、カランカラ、ズイラ。
私は軽い、、もとい狂い歩みを進むる。
われだれぞ?われだれぞ!
気付けばかつて静寂であった参道には、鈴虫や馬追の声で賑やかだ。
行灯だけでなく、所々に提灯まで付き始めた。
カランカラ、ズイラ、カランカラ、ズイラ。
おや、前に沢山いる黒い影は、餓鬼だろうか。
何が面白いのかずっと石を積んでいる。
ちょいと私の後ろに手で合図しながら通り過ぎてみた。
すると、ひょいひょいと私の後ろを付いてくる。
なんだ可愛いげのある奴らだと、ニヤと後を向くと、地蔵好きの青女房まで付いてきている。
お前さんまでよんじゃあいないよ、と思い、クツクツと笑いが込み上げてくる。
われだれぞ!われだれぞ!
人ならざるものの行進は、合唱となり、いよいよ愉しくて仕方がない。
鈴虫達や提灯の灯りどころか、星の瞬きまで行進に合わせてくれている。
私の尻尾はずっと上下にふりっぱなしだ。
おや、ずいぶん歩きにくい格好でここまで歩いたものだ。
私は四つん這いになると、下駄と浴衣を脱ぎ捨て去り、自慢の三又尾をたなびかせる。
われだれぞ!われだれぞ!
魑魅や魍魎、火車や垢舐、果てはがしゃどくろや赤ヱイまで招いた行進はいよいよ大々行列となり、参道の果てに到達した。
大層な社では、これまた座敷童子や鵺、お歯黒様や風神雷神までいる。
その中から鞍馬天狗が遅いじゃないですかいと言うようなことを言いつつ盃を差し出してくる。
盃をくわえ、社のてっぺんに飛び乗る。
そうだ、すっかり忘れていた。
人間に化けるのが楽しくて、それが長すぎたせいで自分のことを忘れてしまっていた。
盃を空に天高くほおりなげる。
零れた酒は、次第に紅葉に替わり、雪に替わり、桜となって地面に落ちたと思ったら、花火となり瞬時にまた天高く打ち上がる。散った花はまた酒に戻り、、、
3周ぐらい見届けると、高らかに笑いながら宣言する。
我こそは出羽より出づる2千年の時を征く化け猫也。
今宵、2百年ぶりとなる百鬼夜行を執り行おうではないか。
世は楽し、おかし。