黄虚雨
やあやあ、これはこれは
わざわざこんなとこにおいでなすってぇ
おや、外は雨じゃあないのかい
いやいや、何も遠慮はいらねぇよぉ
お前さんとの仲じゃあないか
ところでこんな話を知ってるかい?
雨ってのは水だよな
水にも色んな種類があるんだ
いやいや、いつものように、「真空」の定義だとか、音の歪みが何の正弦波に対しての割合だとか、そういうくだらない議論をしたいわけじゃあないんだよ。
黄虚雨の話さ
黄虚雨って言葉ぐらい聞いたことあるだろう?
なんだい、知らねぇのかい?
学術本とは友だちになっておいたほうがいいぜ
黄虚雨ってぇのは、その名に付く漢字の通り硫黄が含まれるのさ。
といっても、ほんの数μ程度。
別に毛髪に影響はないさ、心配するなよ。
ただ、硫黄といえば、いわゆる禿山によくある物質だ。
禿山なんかに行く趣味のやつはいねぇが、職業として住んでるやつはいる。
イタコさんさ。
硫黄ってのは、死者をよびやすいのさ。
だからな、今日みたいな空が黄色みがかった時の雨は気をつけろよ。
たまにさ、ずぶ濡れの女がじっと立ってる姿を見かけたことはないかい?
おお、さっき見たってか。
ははあ、相変わらず運が振れる奴だな。
あいつらは、死者に会おうとしている、もしくは会っている最中の奴らさ。
別に見たってどうってことはないが、目だけは合わせちゃあ行けねえ。
もし、会っている最中の奴だったら、連れて行かれるからな。
お、どうした、もう帰るのか。
なんだい、これから飲もうって時に急いで帰るやつがあるかい。
まぁ、じゃあ握り飯だけでも持っといてくれ。
ちゃあんと家で食べろよ。
塩気が多いからな。